乳酸は運動の副産物であり、酸素が限られているときに脳にエネルギーを供給します。 東北大学の研究によると、神経幹細胞が特殊なニューロンに発達するのを助ける上で、乳酸塩が重要な役割を果たしていること、つまり神経分化のプロセスに欠かせないものであることがわかりました。さらに乳酸が細胞に信号を送り、神経機能を強化することも発見しました。この研究の詳細は、2023年6月10日付けのJournal of Biological Chemistryに報告されました。

研究者は、ヒトやマウスの神経細胞を培養する際、乳酸を加えると神経細胞の分化が促進する（分化指標である NH-F が多くなる）ことを見出しました。このメカニズムは、乳酸が神経細胞の乳酸輸送体(MCT)によって細胞内に取り込まれると、乳酸に結合するタンパク質（NDRG3、転写因子TEAD1 、ELF）などをを介して神経細胞の分化に関わる遺伝子の発現を促進することで起こるということです。

今回の研究成果は、運動によって引き起こされる高い血清乳酸値が神経系に有益な影響を与えるメカニズムについて明らかにしました。さらに、人間の運動によって引き起こされる乳酸値の変化は測定できるため、認知症、記憶力低下などの予防や治療に運動療法を取り入れる意義などについても、今後研究が進みそうです。

【出典】 Yidan Xu, Joji Kusuyama, Shion Osana, Satayuki Matsuhashi, Longfei Li, Hiroaki Takada, Hitoshi Inada, Ryoichi Nagatomi. Lactate promotes neuronal differentiation of SH-SY5Y cells by lactate-responsive gene sets through NDRG3-dependent and -independent manners. Journal of Biological Chemistry, 2023; 299 (6): 104802 DOI: 10.1016/j.jbc.2023.104802