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深い眠りが食欲を抑える
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Posted on 2020.8.8
スイス・ベルン大学のマウスを用いた研究で、急速な眼球運動を伴う浅い眠りのレム(REM)睡眠中に起こる神経活動を抑制すると、マウスの食欲が低下することが明らかになり、2020年7月30日の『PNAS(Proceedings of National Academy of Sciences)』で発表されました。睡眠には、浅い眠りで急速な眼球運動を伴い、心拍数や筋肉の緊張も強く夢を見ていることが多いレム睡眠と、深い眠りで心拍数や血圧も安定しているノンレム睡眠があり、90~120分サイクルで2つの睡眠が訪れとことがわかっています。眠りにつくとすぐにノンレム睡眠が訪れて、朝型に近づくとレム睡眠の時間が長くなります。レム睡眠の間になぜ眼球運動が活発になるのか、何の目的で眼球運動が活発になるのかは、未だに解明されていません。しかし今回の研究によって、レム睡眠中に脳の視床下部の神経活動が活性化し、これによって食欲が高まり、レム睡眠中の視床下部の神経活動を抑制すると、食欲が低下することが明らかになりました。レム睡眠中に強い活性を示す脳領域には、視床下部のうちの外側視床下部という摂食中枢が含まれていました。眠ることが健康に良いということは昔から言われてきました。今回の研究で睡眠中の脳の神経活動を調べることで、眠っている間に起きてから私たちがどのように活動するかを決定し、影響を与えることが明らかになりました。例えばこの研究から考察すると、浅い眠りの影響で、昼間の食欲が亢進して、つい食べ過ぎてしまう可能性が高くなり食事制限が難しくなる可能性があります。ダイエットをする場合には、どれだけ眠るかの睡眠時間だけでなく、睡眠の質、つまり深い眠りのノンレム睡眠に落ちることを重視する必要があるということがわかりました。
ではどうしたら、ノンレム睡眠、つまり深い眠りに入れるか…というと、2020年2月の『Current Biology』オンライン版で発表された筑波大学の研究によると、レム睡眠とノンレム睡眠をコントロールする神経細胞が脳幹内の4カ所にあることがわかり、その神経細胞が「ニューロテンシン」というレム睡眠を抑える神経ペプチドを放出して、睡眠の質をコントロールしているようです。おもしろいことに、ニューロテンシンを放出する細胞は、揺れによって活性化して眠りを促す可能性があるということです。赤ちゃんを抱っこするとよく眠ったり、電車に揺られるとすぐに眠くなるのは、皆さんも経験があることだと思いますが、これはどうやらニューロテンシンの働きと関係しているようです。
将来的に、揺れの刺激を用いてノンレム睡眠を維持することが、肥満や睡眠障害などの改善にも役立つかもしれません。ダイエットに成功するためには、揺られながら眠ること…が常識になるかも!
【出典】
Lukas T. Oesch, Mary Gazea, Thomas C. Gent, Mojtaba Bandarabadi, Carolina Gutierrez Herrera, Antoine R. Adamantidis. REM sleep stabilizes hypothalamic representation of feeding behavior. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2020; 201921909 DOI: 10.1073/pnas.1921909117
Widely Distributed Neurotensinergic Neurons in the Brainstem Regulate NREM Sleep in Mice, Feb 06, 2020, Current Biology at DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.01.047