チーズと言えば食欲をそそる独特の香りが魅力です。乳製品のチーズは、酵母菌やカビなどの細菌によって発酵が進むことで香りを育みます。でもどうして数多く存在するカビなどの菌の中から、チーズの香りを醸し出す菌だけが選ばれるのでしょうか?米国タフツ大学の研究によると、チーズの外皮で成長する真菌が空気中に放出する化合物「揮発性有機化合物(VOC)」のニオイを、チーズの熟成に欠かせない細菌類が感知して応答し、チーズの成長に必要な細菌が集まり、他の成長に必要のない細菌よりも成長力が高いことで生存競争に勝ち残ることがわかりました。つまりチーズの熟成に必要な細菌、酵母、菌類は、お互いにVOCが出すニオイを感知して反応し合いながらマイクロバイオーム(微生物叢)を形成していることがわかり、2020年10月の科学雑誌『Environmental Microbiology』でその研究成果が発表されました。研究者らは、16種類の一般的なチーズバクテリアと5種類の一般的なチーズの皮の真菌を組み合わせることにより、この真菌たちが強力な刺激、および強力な阻害などさまざまな細菌間の応答を引き起こすことを発見しました。そのうちの細菌種である「Vibriocasei」は、5つのチーズ外皮につく真菌すべてから放出されるVOCの存在下で急速に増殖することがわかりました。「揮発性有機化合物(VOC)』の代表的なものは、雨が降った後に土中の微生物から放たれる「ゲオスミン」で、一説には生物を誘引するためにゲオスミンを放出するのではないかと言われています。
【出典】 Casey M. Cosetta, Nicole Kfoury, Albert Robbat, Benjamin E. Wolfe. Fungal volatiles mediate cheese rind microbiome assembly. Environmental Microbiology, 2020; DOI: 10.1111/1462-2920.15223