コラムColumn

カロリー制限が脳を守り寿命を延ばす

その他老化肥満脳食

Posted on 2024.6.28

カロリー制限が健康を改善し、寿命を延ばすことは知られていますが、その仕組みや、特に脳をどのように保護するかについては謎のままです。米国バック研究所によると、「OXR1」と呼ばれる遺伝子が食事制限で見られる寿命の延長に必要であり、健康な脳の老化にも不可欠であることが判明し、2024年1月の「Nature Communication」にその研究成果が掲載されました。

研究チームは食事制限がどのようにして老化を遅らせ、神経変性疾患の進行を遅らせることができるのかについて、詳細な細胞メカニズムを実証するために、ショウジョウバエとヒトの細胞を用いて研究を進めました。

その結果、「OXR1」という食事制限による神経保護を媒介する遺伝子を発見しました。さらに間欠的な絶食やカロリー制限などの栄養素を制限する戦略は、この遺伝子のレベルを高めて寿命を延ばす可能性があることがわかりました。

「OXR1」は、 細胞を酸化損傷から保護し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルの生存率の向上などを可能にする一方で、 OXR1 の喪失は、重度の神経学的欠陥と早期死亡をもたらします。

さらにOXR1が、細胞タンパク質と脂質のリサイクルに必要なタンパク質のセットである「レトロマー」と呼ばれる複合体に影響を与えることを発見しました。このレトロマーは、細胞内に持ち込まれるすべてのタンパク質の運命を決定し、ニューロンにおける重要な機構であることが知られています。

今回の研究は、細胞タンパク質の再利用に関与するレトロマー経路が、栄養素が制限されている場合に、ニューロンを保護する上で重要な役割を果たしていることを示し、研究チームは、mtd/OXR1がレトロマー機能を維持し、神経機能、健康な脳老化、食事制限で見られる寿命延長に必要であることを発見しました。

【出典】 Kenneth A. Wilson, Sudipta Bar, Eric B. Dammer, Enrique M. Carrera, Brian A. Hodge, Tyler A. U. Hilsabeck, Joanna Bons, George W. Brownridge, Jennifer N. Beck, Jacob Rose, Melia Granath-Panelo, Christopher S. Nelson, Grace Qi, Akos A. Gerencser, Jianfeng Lan, Alexandra Afenjar, Geetanjali Chawla, Rachel B. Brem, Philippe M. Campeau, Hugo J. Bellen, Birgit Schilling, Nicholas T. Seyfried, Lisa M. Ellerby, Pankaj Kapahi. OXR1 maintains the retromer to delay brain aging under dietary restriction. Nature Communications, 2024; 15 (1) DOI: 10.1038/s41467-023-44343-3