コラムColumn
食べても満足しない脳の秘密
肥満脳食
Posted on 2009.6.21
2008年10月17日発行の『Science』に掲載されたオレゴン研究所のエリック・スタイス博士らの研究によると、食べ過ぎて肥満することは、脳のドーパミンなどの喜びを感じる神経伝達物質の分泌が十分でないことに関連しているかもしれないそうです。
この結論は、太った若い女性は、チョコレート・ミルクシェーキを飲んだときに、同世代の痩せた若い女性よりも、ドーパミンの分泌が少ないという今回の結果から、導き出されました。「つまり太ってしまう人は、痩せている人よりも、食べることに対する喜びを感じる脳の感受性が弱いのかもしれない」ということです。
実験は平均年齢15.7歳、平均BMIが24.3の33人の肥満ではない一般的な女性のグループと、平均年齢20.8歳で、平均BMIが28.6のやや肥満気味の43人の女性のグループを対象に行われ、甘くておいしいチョコレート・ミルクシェーキと、味のない液体を飲んだときの、MRI画像による脳の反応と、血液検査の結果を比較しました。
以前までの実験では、食事を摂ることによって、大脳基底核の「背側線条体(新線条体)」でドーパミンレセプターが放出されて、喜びや満足感を感じることがわかっています。
今回の実験によると、おいしいミルク・シェークを飲んだとき、肥満していないスリムなグループは、大脳基底核にある「尾状核」(左側)が刺激されて、活動が活発になることがわかりました。
***この「尾状核」が刺激されると、食欲が抑制されます。これは、霊長類の脳の「尾状核」を電気的に刺激すると、バナナを見ても欲しがらなくなるという実験からも明らかになっています。
また、今回の研究で、ドーパミンレセプターの数を少なくすることに関係する、A1対立遺伝子(TaqIA制限酵素断片長多型)の存在が、左の尾状核の活動を低下させて、肥満させることに関連することが示唆されています。
つまり、食べ過ぎて太ってしまう人は、背側線条体でのドーパミンの放出が少なく、そのために、食べることによって放出されるドーパミンの量も少ないので、食欲を満たすことができず、普通の人よりも多く食べてしまい、肥満になるのかもしれないことや、その背景には、太っている人が、ドーパミンレセプターを少なくするA1対立遺伝子を持っていることが関係していることを示唆しました。