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重度の自閉症、レット症候群などの新規治療薬の手掛かりを発見

病気

Posted on 2016.1.7

admin-ajax.phpCredit: Gong Chen lab, Penn State University
重度の自閉症スペクトラムや、「レット症候群」という女児に発症する神経系を主体とした特異な発達障害(推定患者数1030人。睡眠、筋緊張の異常、姿勢運動の異常、ジストニア、側彎、情動異常、知的障害、てんかんなどの症状が乳幼児期から出現するケースが多い)の新規治療薬の開発に有力な標的物質が米国ペンシルベニア大学で発見されたことが明らかになり、2016年1月4日の「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン初期編集版で発表されました。
この研究はレット症候群の患者さんの皮膚の細胞を使って行われたもので、レット症候群の患者さんの約95%に、X染色体上の「MECP2遺伝子」に変異を持つことから、この遺伝子変異が神経細胞に与える影響を調べました。
その結果、「神経細胞特異的カリウムークロール共役担体(KCC2)

」という塩素イオンの細胞外排出を行う物質が、正常な発達の場合は成長とともに増加して、神経細胞内の塩素イオン濃度を低下させることで、「GABA」や「グリシン」などの抑制系神経伝達物質が働くようになりますが、レット症候群や重度の自閉症スペクトラムの場合、KCC2が不足することで、抑制系の神経伝達物質がうまく働くことができなくなって、さまざまな発達障害の症状が発現することが明らかになりました。そこでレット症候群の患者さんの細胞にKCC2を追加したところ、抑制系神経伝達物質のGABAが正常に機能することがわかりました。さらに研究者らは、ヒトや動物の成長や発達を促進するホルモン「インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factors 1:IGF1)」が、KCC2のレベルを上昇させて、GABAの働きを正常にすることが明らかになり、レット症候群や重度の自閉症スペクトラムに対する新規治療薬開発の手掛かりとなる研究成果となりました。

Penn State Univ. "Discovery of a new drug target could lead to novel treatment for severe autism." Proceedings of the National Academy of Sciences, 4 Jan. 2016