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【メディカル】薬で辛い感情を伴った記憶が書き換えられる!
心理
Posted on 2011.5.30
カナダ・モントリオール大学医学部のSonia Lupien博士らが、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2011年5月18日オンライン版に発表した研究で、悲しみや苦しみなどの負の感情が伴った嫌な過去の記憶を、事後に薬物を投与す ることで、再想起するときに、減らせるということが明らかになりました。
博士らはこれまでの研究で、ストレスホルモンである副腎皮質ホルモ ンのコルチゾルが、記憶想起プロセスの調整力を有することが明らかとなったことから、副腎皮質ホルモン合成阻害薬メチラポンにより、コルチゾルレベルを変 化させることで、記憶想起がどのような影響をうけるかについての実験研究を企画しました。
実験は、健康な青年男性被験者34人を対象に行わ れ、まず最初に被験者たちは、①感情に訴えることのない情動に対してニュートラルなストーリーのスライドショー、②ネガティブな観る者の感情を激しく揺さ ぶる衝撃的、情動的なストーリーのスライドショー、の2タイプのスライドショーを見せられました。スライドショーの3日後、被験者はメチラポン750mg 投与群、メチラポン750mg×2投与群、プラセボ群の3グループに分けられ、それぞれ服用後に3日前のスライドショーの内容を思い出す、記憶の再想起テ ストを行いました。そしてさらに4日後メチラポンの効力がなくなって、被験者のコルチゾルレベルが全員同水準の状態で、被験者たちは再度スライドショウの 内容を、どの程度記憶しているか再想起テストを受けました。
実験の結果、メチラポン750mg×2投与群の被験者たちは、投与直後の再想起 テストでニュートラルなストーリーの記憶は、他の群と同レベルで影響を受けませんでしたが、情動的なストーリーの記憶の結果が、他の群よりも低下していま した。さらに4日後の再想起テストの結果でも、既にメチラポンの影響がなくなり、全員コルチゾルレベルが同水準になっているにもかかわらず同様の結果でし た。
博士らは1度メチラポンでネガティブな記憶が影響を受けると、その効果が持続するということが明らかになったことで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの治療に応用可能なのではないかとしています。