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悲しみは「擬人化」で和らげることができる

心理脳

Posted on 2019.10.6

米国ピクサー映画『インサイド・ヘッド(原題:Inside Head)』では、主人公ライリーという女の子の感情を擬人化したキャラクターで表現して、人間の脳機能と感情について、わかりやすく映画いています。今回紹介する研究は、この映画にヒントを得たかもしれません。

米国テキサス大学の研究で、悲しみを擬人化することで、悲しみのレベルを下げることができ、これによって衝動的な意思決定によるさまざまな不利益を免れることができる可能性がわかり、その研究内容が、2019年9月26日号の『Journal of Consumer Psychology』に発表されました。

人は悲しみを感じると、その痛みから逃れ、痛みを癒すために、衝動買い、やけ食いなどを繰り返してしまう習性があり、これが健康に悪影響を与えてしまうことも少なくありません。

そこで研究者らは、被験者に対して「非常に悲しいと思ったこと(親しい人の死など)」を思い浮かべるように依頼して、その時点での「悲しみのレベル」を1~7で評価してもらいました。次にこの仮説テストに参加した被験者を2つのグループに分けて、片方のグループに対して、「自分の悲しみを人で表現すること」を指示しました。被験者は、それぞれ「頭を下げてゆっくりと歩く少女」とか、「笑顔のない青白い人間」、「灰色の神とくぼんだ目を持つ人」などと表現し、悲しみを擬人化するように考えるうちに、悲しみの感情が自分から離れて、自分と悲しみの間に距離ができたことで、悲しみの感情が軽くなる印象を持った、と訴えた人が多く見られました。

次のテストでは、2つのグループに対して、昼食のメニューを選ばせたところ、悲しみを擬人化したグループでは、サイドディッシュに「サラダ」を選ぶ人が多かったのに対して、擬人化していないグループでは、チーズケーキを選ぶ人が多いことが判明し、研究者は、擬人化グループの方が、自制心を働かせて、より健康的なメニューを選択できていると評価しました。

さらに消費行動に関するテストとして、パソコンを買うとしたら、実用性の高いものか、エンターテインメント性の高いものかを選択させたところ、悲しみを擬人化したグループの方が、実用性の高いパソコンを選択する傾向が高いことが判明しました。

以上のような結果から、悲しみを擬人化することは、悲しみの感情と自分自身の間に距離感を持つことができるようになり、それによって悲しみのレベルが下がり、深い悲しみが影響して起こる、衝動的な意思決定による不健康な行動や、あとで後悔しそうな誤った選択をしないように回避することができると推察しています。

Fangyuan Chen, Rocky Peng Chen, Li Yang. When Sadness Comes Alive, Will It Be Less Painful? The Effects of Anthropomorphic Thinking on Sadness Regulation and Consumption. Journal of Consumer Psychology, 2019