コラムColumn
幼児期の社会的孤立で脳機能が変化する
心理教育、子育て脳
Posted on 2020.9.15
新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中の学校の閉鎖や外出の禁止、コンサートやイベントの中止、大人数での会食の自粛など、さまざまな社会活動が制限されてしまい、子どもや若い世代の孤立感・孤独感が高まっています。孤独感は、メンタルヘルスの健康にとって大きな脅威になり、特に幼児期の社会的孤立は、成長してから社会的行動障害(感情・欲求をコントロールできない、共感性の欠如、固執性(こだわり)が強い、意欲低下など)、うつ病、自閉症、統合失調症などを引き起こす可能性があることがわかっています。米国マウントサイナイ医科大学が、2020年8月の『Nature Neuroscience』に発表した研究成果によると、離乳直前のマウスを約2週間、親から引き離し孤立させて飼育すると、脳の背内側前頭前野皮質のニューロンの活性が低下することが明らかになりました。背内側前頭前野は、他人の気持ちを思いやり、コミュニケーション力や共感性、社会性をつかさどる領域で、幼児期の孤立体験が、脳の社会性を育て維持する領域の機能を低下させていることが明らかになりました。また研究者は、「オプトジェネティクス」という手法で、機能低下したマウスの背内側前頭前野をパルス光刺激すると、社会的行動障害と思われる行動が減ることが確認されました。今回の研究によって社会的行動障害の治療を行うべき脳領域が明らかになったため、新しい治療法の開発につながる可能性が期待されます。
【出典】Kazuhiko Yamamuro, Lucy K. Bicks, Michael B. Leventhal, Daisuke Kato, Susanna Im, Meghan E. Flanigan, Yury Garkun, Kevin J. Norman, Keaven Caro, Masato Sadahiro, Klas Kullander, Schahram Akbarian, Scott J. Russo, Hirofumi Morishita. A prefrontal–paraventricular thalamus circuit requires juvenile social experience to regulate adult sociability in mice. Nature Neuroscience, Aug. 31, 2020; DOI: 10.1038/s41593-020-0695-6