コラムColumn

無快感症と前頭前野型認知症の関係

心理老化脳

Posted on 2021.11.3

40~65歳までの早期に認知症を発症する人は、発症前から楽しい・心地良いと感じていた物事から快感・喜びを得られなくなる無快感症(アンヘドニア)の傾向があることがオーストラリアのシドニー大学の研究で明らかになり、2021年4月12日「Brain」で報告されました。シドニー大学が行った脳スキャンを用いた研究によると、前頭側頭型認知症(FTD)の患者において、報酬探索の低下に関連する脳の前頭および線条体領域の顕著な変性または萎縮が明らかになりました。これは脳の快楽システムに関連する灰白質の劣化を示しています。また この研究では、臨床的に有意な無快感症を示すことが見出されなかったアルツハイマー病の患者とは対照的に、FTDの患者(一般に40〜65歳の人々に影響を与える)は、発症前から脳の前頭および線条体領域の劇的な減少を示しました。人間の経験の多くは、喜びを体験したいという意欲によって動機付けられていますが、この能力について私たちは気づかず当然のことと考えています。しかし私たちが、人生の単純な喜びを楽しむ能力を失ってしまうことを想像すると、いかに幸福感に大きな影響を与えるかが想像できると思います。研究者は無快感症の患者さんの日常生活に与える影響に対処し、患者さんとその家族の生活の質を改善するために的を絞った治療法・対処法の開発を進めていくと述べています。

【出典】Siobhán R Shaw, Hashim El-Omar, Daniel Roquet, John R Hodges, Olivier Piguet, Rebekah M Ahmed, Alexis E Whitton, Muireann Irish. Uncovering the prevalence and neural substrates of anhedonia in frontotemporal dementia. Brain, 2021; DOI: 10.1093/brain/awab032