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老いない理由は筋肉にあり!

運動

Posted on 2008.8.2

エネルギー消費に欠かせない筋肉
体重の約40%を占める筋肉は、骨格、内臓、心臓を動かすだけでなく、糖をエネルギーに変えて消費することで、代謝を促進し、余分な脂肪を蓄積させないように働きます。ほかにも筋肉は、血行促進や体温上昇にも関係しています。
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アディポネクチンと筋肉の関係

最近ではメタボリックシンドロームの予防に関する研究の中心的存在となった「アディポネクチン」(血管の傷を修復して動脈硬化を防ぐホルモン)の分泌が筋肉細胞によって促進されることがわかり、世界中の研究者が、筋肉の新たな働きを発見することに注目しています。
京都府立医科大学教授の吉川敏一さんは「筋肉は老化防止に重要な役割を果たしています。これまでの糖尿病治療などで行われてきた運動療法は、筋肉が正常な代謝に戻すことに有効だということを裏付けています。これから問題になるのは、最適な運動量や運動の種類を個人の身体能力や体調に合わせて決めるかということです」と説明します。
40歳過ぎから減少の一途をたどる筋肉
40歳を過ぎる頃から特別な運動などをしていなければ、筋肉は毎年0.5%ずつ減少していきます。筋肉を増やすためには、軽い運動だけではなく重いウエイトを持ち上げたり、早く走ったりして、筋肉に負荷をかけて一時的に筋肉に“傷”を作る「損傷と修復」を繰り返さなければなりません。
スポーツ選手が自らの肉体を極限まで追い込んでトレーニングをするのは、このような損傷と修復を繰り返して筋肉を鍛えているからです。
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重要な運動マーカー「クレアチンキナーゼ」
従来までの勘や経験で行ってきたスポーツ選手のトレーニングや、病気の治療のための運動療法を、より効果的、科学的に医学の世界に取り入れるためには、その人にとって適切な運動量を判断する「運動マーカー」を発見する必要があり、現在では、その研究が進められています。
すでに用いられている運動マーカーのひとつが、「クレアチンキナーゼ(CPK)」です。CPKは筋肉にある酵素で、激しい運動などで筋細胞が損傷を起こすと、血液中に溶け出す性質を持ちます
より激しい運動をすると、CPKの数値は上昇し、その後運動をやめると48~72時間で平常値に戻ります。
筋肉疲労度を測定しトレーニングに活用
国立スポーツ科学センター副主任研究員で、内科医としてオリンピック選手の健康を管理する小松裕さんも、「CPKは選手たちの筋肉の疲労度を調べるのに有効なマーカーです。普通の人は高くなっても250~300程度ですが、オリンピック選手は1000程度まで上昇するのが普通です。しかしそれ以上の数値になれば、、休息をとるようにアドバイスします。CPKは自分が筋肉量を増やすために無理なく適切に運動しているかどうかを確認するためには、有効なデータです」とCPKがオリンピック選手のトレーニングや体調管理に役立っていることを説明します。
ただし、CPKの数値や筋肉の疲労度についても個人差が大きいので、ひとりの被験者を時系列的に何度か測定したデータをもとに、運動量を決めることが理想なのだそうです。
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阪神金本選手のケーススタディ

京都府立医科大学の吉川教授は、新たな運動マーカーの発見や運動効果の医学的な実証のために、2年前から阪神タイガース金本知憲外野手(39歳)の血液検査など、基礎データをもとに、適切な運動量や食事メニューなどの指導を続けています。
その結果、金本選手の血管年齢、筋肉年齢は20代に若返り、成長ホルモンも1年前に比べて2倍近くも多く分泌されるようになり、先日も2000本安打と400号ホームランという偉業を達成しました。
さらに金本選手は、バッターにとって生命線でもある動体視力も改善されて、現在までの野手の最高齢出場記録である45歳を大幅に上回る「50歳現役」をめざしているそうです。
アンチエイジングの可能性を広げる
吉川教授は「金本選手の指導結果をもとに、医学の世界にオーダーメイドな運動療法を取り入れて、従来までの治療法の見直しや、新たなアンチエイジングの可能性を研究していきたい」と今後の抱負を語ってくれました。